B:孤高の野獣 アルティック
俺は、この辺りが地元だから、よくわかるんだが……
クルザス西部高地は、寒冷化で生態も大きく変化してしまった。以前は、北アバラシアの山奥でしか見られなかったミロドンが、この辺りに流入してきたのも、霊災以降のことさ。
こいつは肉食で、人も襲う恐ろしい野獣でな……。
中でも「アルティック」と名付けられた、はぐれミロドンには、騎兵連中も手を焼いている。もうすでに、10名以上の人命がヤツに奪われたそうだ。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
世界に大きな変化が起きて俺たちは住み慣れた地を離れた。
俺たちが暮らしていた豊かな森は針山のようになり、風に揺れる草原の草花は枯れ果て無くなり、鏡のように空を映した湖は干上がった。
だから俺たちの一族は食料を求めて移住を決意した。
子供連れの旅は過酷で、群れは疲弊してもうこれ以上移動出来なくなって、辿り着いたこの雪原で暮らす事にした。
食料は相変わらず足りないが、雪や氷をかじって飢えが凌げるだけマシだし、時折獲物も採れる。
だが圧倒的に食料が足りず弱い子供たちから倒れていった。
孤高なんてそんなかっこいいものでは無い。人一倍体が大きく、食料が必要だったから、群れの食料を減らしたくなくて俺は群れを離れたんだ。
一人群れから離れ、雪原を奥地まで進むとこの雪原には非常に危険な連中も多いが、意外と多くの獲物が暮らしている事がわかった。獰猛な狼、雪原を走り回る鳥、巨大な羊。巨大な熊もいる。一族の中でも体が大きい俺でなくちゃ狩れないような獲物達、そして稀に人間が雪原を通過する事も。
人間は非力なのにこの不毛な地でもいいものを食べているらしい。その肉は実に美味い。それに肉も去ることながら、他に沢山の食料や家畜を連れていた。だから俺は人間を見かける度に狩る事にした。そうやって俺は一人、雪原を遠くまで彷徨い仕留めた獲物を群れに届けることにした。それが群れの長であり、もっとも強い俺の役目だと悟った。
今や俺は群れの生命線だ。
倒れる訳にはいかないんだ。
こんなたった2人の非力な人間共にやられる訳にはいかないんだ。俺の群れは…、腹を空かせた子供たちのために…。
真っ赤に血で染まった雪原に倒れ込んでいた魔獣は思うように動かなくなった震える前足でなんとか上体を起こすと、自分を鼓舞するように鋭く吠えると自分を倒さんとする人間を睨みつけた。
「これ以上、人を襲わせる訳にはいかないのよ」
杖を構えた人間は言った。
だが、人の言葉など意味が分からない。ただの雑音だ。
俺は最後の力を振り絞ってフラつきながら立ち上がった。
もう視界も霞んでいたが、剣を持った方の人間が留めを刺そうと走り寄って来るのがわかる。
もう何も見えてはいなかったが、俺は後ろ足で立ち上がると、前足を振りかぶった。